
補聴器とヘッドホンの併用は可能なのか、どのような製品を選べば良いのか、多くの方が疑問に思っていることでしょう。
補聴器を使っていても、好きな音楽を高音質で楽しみたい、テレビや映画の音をよりクリアに聞きたいと感じることはありませんか。
近年、Bluetooth技術の進化により、補聴器の使い方は大きく変わりました。
直接音声をストリーミングできる補聴器が増える一方で、従来の音響機器との接続には工夫が必要です。
この記事では、耳かけ型補聴器と相性の良いオーバーイヤー(アラウンドイヤー)型ヘッドホンや、耳あな型補聴器に使えるイヤホンの可能性について解説します。
さらに、新しい選択肢として注目される骨伝導イヤホンと補聴器の組み合わせ、補聴器機能付きワイヤレスイヤホンや補聴器ヘッドホン型のデバイス、そして老人性難聴で聞こえにお悩みの方に向けたヘッドホンや集音器との違いまで、幅広く掘り下げていきます。
あなたに最適な補聴器とヘッドホンのおすすめの組み合わせを見つけるための、具体的な情報をお届けします。
◎この記事で分かること
- 補聴器の種類に合わせたヘッドホンの選び方
- ハウリング(ピーピー音)を防ぐための具体的な対策
- Bluetoothや骨伝導など最新技術の活用法
- 目的や聞こえの状態に合わせたおすすめ製品と注意点
補聴器とヘッドホンを併用する際の基本と注意点

そもそも補聴器で音楽は聴けますか?
結論から言うと、はい、多くの最新補聴器で音楽を聴くことは可能です。
技術の進歩により、最近の補聴器は単に会話を聞き取りやすくするだけでなく、音楽鑑賞といった多様な音響環境に対応できるよう設計されています。
しかし、補聴器で快適に音楽を楽しむためには、いくつかのポイントを理解しておく必要があります。
音楽鑑賞用のプログラム設定
多くのデジタル補聴器には、使用する環境に合わせて音質を切り替える「プログラム」機能が搭載されています。
普段の会話を聞き取るためのプログラムは、人の声の周波数帯域を強調し、突発的な騒音を抑制するように設定されています。
この設定のまま音楽を聴くと、楽器の繊細な音色やダイナミックな音の広がりが損なわれ、平坦で物足りない音に聞こえてしまうことがあります。
そのため、多くの補聴器メーカーは「音楽鑑賞用プログラム」を用意しています。
このプログラムに切り替えることで、騒音抑制やハウリング抑制といった機能を弱め、幅広い周波数の音をより自然に近い形で増幅してくれるため、音楽本来の豊かさを楽しむことが可能です。
この設定については、購入した補聴器販売店で相談してみましょう。
補聴器が苦手とすること
本来、補聴器は会話の明瞭度を最優先に設計されています。
会話の音域は約50dB程度の幅ですが、オーケストラなどの音楽は約100dB以上もの広いダイナミックレンジ(最も小さい音と最も大きい音の幅)を持ちます。
補聴器がこの広い音域を処理しきれず、音が割れたり、圧縮されたように聞こえたりすることがある点は注意が必要です。
クラシック音楽やライブ音源など、音の強弱が豊かな音楽を聴く際には、特にこの「音楽鑑賞用プログラム」が効果を発揮しますよ。
スマートフォンのアプリで簡単に切り替えられる機種も増えています。
快適に楽しむならBluetoothが一番

補聴器で音楽や音声コンテンツを楽しむ上で、最も快適で音質劣化の少ない方法がBluetoothによるワイヤレス接続です。
ヘッドホンを物理的に装着する必要がなく、補聴器がワイヤレスイヤホンのように機能するため、ハウリング(ピーピー音)の心配から完全に解放されます。
スマートフォンやタブレット、パソコンなどのBluetooth対応機器と補聴器を直接ペアリング(接続設定)するだけで、様々な音声をダイレクトに補聴器へストリーミングできます。
対応する規格を確認しよう
補聴器のBluetooth接続には、主に以下の規格があります。
Bluetooth非搭載の機器と接続するには?
テレビや古いオーディオプレーヤーなど、Bluetooth機能が搭載されていない機器の音声を補聴器で聞きたい場合もあるでしょう。
その際は、「ワイヤレス送信機(トランスミッター)」という別売りのアクセサリーを使用します。
送信機をテレビのイヤホン端子や音声出力端子に接続することで、音声をBluetooth信号に変換し、補聴器へワイヤレスで届けることが可能です。
このように、Bluetooth機能を活用すれば、ヘッドホンを併用する際の物理的な制約や不快感なく、クリアな音で音楽や動画、通話などを楽しむことができます。
お使いのスマートフォンや補聴器がどの規格に対応しているか、購入前に確認しておくことが重要です。
ヘッドホンは耳への負担が大きいですか?
ヘッドホンの使用が必ずしも耳への負担になるわけではありませんが、使い方によっては難聴のリスクを高める可能性があります。
これは補聴器との併用に限らず、すべての人に共通する注意点です。
大きな音を長時間聞き続けると、音を感知する耳の奥の有毛細胞がダメージを受け、「騒音性難聴(ヘッドホン難聴)」を引き起こすことがあります。
一度傷ついた有毛細胞は再生しないため、予防が何よりも大切です。
安全なリスニングのための「ルール」
世界保健機関(WHO)などは、聴力を守るための具体的なガイドラインを提唱しています。これらを意識することで、耳への負担を大幅に軽減できます。
安全なリスニングの目安
ルール名 | 内容 | 提唱元(参考) |
---|---|---|
80/90の原則 | オーディオ機器の最大音量の80%以下の音量で、1日の聴取時間を90分程度に抑える。 | – |
60/60ルール | 最大音量の60%までの音量で、1日の使用時間を合計60分程度に抑える。 | 米国疾病管理センター(CDC)など |
特に周囲が騒がしい場所では、無意識に音量を上げてしまいがちです。
聴力を守るためには、ノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンを活用し、そもそも大きな音量で聞く必要のない静かな環境を作ることも非常に有効な対策となります。
また、1時間に10分程度の休憩を挟み、耳を休ませる習慣をつけましょう。
オーバーイヤー(アラウンドイヤー)型ヘッドホン
特に耳かけ型(BTE/RIC)補聴器を使用している方にとって、最も相性が良く、現実的な選択肢となるのがオーバーイヤー型ヘッドホンです。
アラウンドイヤー型とも呼ばれるこのタイプは、その名の通りイヤーカップが耳全体をすっぽりと覆うように設計されています。この構造が、補聴器との併用において大きなメリットをもたらします。
なぜオーバーイヤー型が適しているのか?
最大の理由は、ハウリング(不快なピーピー音)が発生しにくい点にあります。
ハウリングは、補聴器のスピーカー(レシーバー)から出た増幅音が、耳との隙間から漏れ、再び補聴器のマイクに入ってしまうことで起こる音のループ現象です。
オーバーイヤー型ヘッドホンは、イヤーカップが耳の後ろにある補聴器本体やマイクに直接触れたり、圧迫したりするのを避けて装着できるため、この音漏れのリスクを最小限に抑えることができます。
選ぶ際のチェックポイント
実際に補聴器をつけた状態で試着してみるのが一番です。
大型家電量販店など、試聴機が置いてある場所で、フィット感やハウリングの有無を確認してから購入することをおすすめします。
ただし、デメリットとして、サイズが大きくなりがちで持ち運びにかさばる点や、夏場は蒸れやすいといった点が挙げられます。
補聴器に使えるイヤホンという選択肢
補聴器とイヤホンの併用は、一般的に難しいとされていますが、一部の耳あな型補聴器では可能な場合があります。
特に、外耳道の奥深くに収まり、外からはほとんど見えないIIC(完全外耳道内挿入型)やCIC(外耳道内挿入型)といった非常に小さいタイプの補聴器を使用している場合、イヤホンを装着するスペースが残されている可能性があります。
併用が難しい理由
耳かけ型(BTE/RIC)補聴器の場合、耳あなの中に音を出すためのレシーバーやイヤホンチップ(耳せん)が装着されています。
ここにさらにイヤホンを挿入しようとすると、物理的に干渉してしまい、正しく装着することができません。
また、カナル型(ITC)など、少し大きめの耳あな型補聴器でも、補聴器本体が耳のくぼみの大部分を占めるため、イヤホンを入れるのは困難です。
無理な装着は絶対に避けてください
もしイヤホンを装着できたとしても、耳の中が圧迫されることでハウリングが起きやすくなったり、耳を痛めたりする危険性があります。
最悪の場合、補聴器やイヤホンの破損に繋がる可能性も考えられます。
自己判断で無理に併用するのは避け、まずは補聴器販売店の専門家に相談することが賢明です。
イヤホンでの音楽鑑賞を希望する場合は、前述のBluetoothストリーミング機能を持つ補聴器を選ぶか、次に紹介する骨伝導イヤホンを検討するのが、より安全で現実的な解決策と言えるでしょう。
骨伝導イヤホンと補聴器の相性について

骨伝導イヤホンは、補聴器との併用において非常に相性が良く、有力な選択肢の一つです。
一般的なイヤホンやヘッドホンが鼓膜を振動させて音を伝えるのに対し、骨伝導イヤホンは、こめかみ付近の骨を振動させ、その振動を聴覚神経へ直接届ける仕組みです。
この特性が、補聴器ユーザーにとって大きなメリットとなります。
併用におけるメリット
注意点とデメリット
一方で、骨伝導イヤホンにはいくつかの注意点もあります。
AfterShokz(現Shokz)などのブランドが有名で、多くのモデルが販売されています。
補聴器との干渉を避けつつ、安全に音楽を楽しみたい方にとって、試してみる価値のあるテクノロジーです。
補聴器とヘッドホンを併用する際のポイント

補聴器機能付きワイヤレスイヤホンとは

近年、通常のワイヤレスイヤホンに、周囲の音を聞き取りやすくする「集音」や「補聴」といった機能を付加した製品が登場し、注目を集めています。
これらは「スマートイヤホン」とも呼ばれ、音楽鑑賞や通話といった従来の機能に加え、アプリと連携して特定の環境音を強調したり、自分の聞こえに合わせて音質をカスタマイズしたりすることができます。
デザインもスタイリッシュなものが多く、「いかにも補聴器」という見た目に抵抗がある若い世代や、軽度の聞こえにくさを感じ始めた方に人気です。
医療機器である「補聴器」との違い
最も重要な点は、これらの製品が音響機器であり、厚生労働省から認可された管理医療機器である「補聴器」とは異なるという点です。主な違いは以下の通りです。
- 調整の精度: 補聴器は聴力測定データに基づき、専門家が周波数ごとに細かく音の増幅率を調整します。一方、補聴器機能付きイヤホンは、簡易的な聴力チェックに基づき、ユーザー自身がアプリで調整するものが多く、その精度は限定的です。
- 対象者: 主に健聴者や、会話が少し聞き取りにくいと感じる程度の軽度難聴者を対象としています。中等度以上の難聴には、出力が足りず十分な効果が得られない可能性があります。
- 安全性: 補聴器には、過大音で耳を傷つけないようにする出力制限機能が備わっていますが、音響機器であるイヤホンには同様の安全基準はありません。
代表的な製品としては、Olive Union社の「Olive Smart Ear」などがあります。
Olive Union社の補聴器については以下の記事でも紹介しています。
購入を検討する際は、これらの製品がご自身の聞こえの状態に適しているか、必ず耳鼻咽喉科の医師や補聴器の専門家に相談することをおすすめします。
補聴器ヘッドホン型という選択肢も
「補聴器ヘッドホン型」と呼ばれる製品は、一般的に「ヘッドホン型集音器」を指すことが多く、これも補聴器とは異なるカテゴリーの製品です。
その名の通り、見た目は完全にヘッドホンですが、内蔵されたマイクで周囲の音を集め、増幅して聞こえをサポートする機能を持ちます。
特に、補聴器の装着に抵抗を感じる高齢者の方などに受け入れられやすいという特徴があります。
主な用途と特徴
補聴器ヘッドホン型の多くは、テレビの音声をクリアに聞くことを主な目的として設計されています。
- ワイヤレス接続: 送信機をテレビに接続し、ヘッドホンへ音声をワイヤレスで飛ばすタイプの製品が主流です。これにより、家族に気兼ねなく自分に合った音量でテレビを楽しめます。
- 簡単な操作性: ボタンが大きく、音量調節などが直感的に行えるようにデザインされています。
- 集音機能の切り替え: ボタン一つで、テレビの音声モードから、周囲の会話を聞き取るための集音モードに切り替えられる製品もあります。
例えば、オーム電機から販売されている「ヘッドホン型集音器 NP-505」などがこのタイプに該当しますね。
補聴器のように一日中装着するのではなく、特定の場面で聞こえを補助するためのツール、と考えると分かりやすいかもしれません。
これも前述の補聴器機能付きイヤホンと同様、医療機器ではなく音響機器です。
聞こえの状態によっては効果が限定的であるため、あくまで補助的な製品として位置づけるのが適切です。
老人性難聴向けヘッドホンの特徴

老人性難聴の方がヘッドホンを選ぶ際には、音質だけでなく、使いやすさや安全性に配慮した機能が重要になります。
加齢に伴う難聴(老人性難聴)は、高い周波数の音が聞き取りにくくなるのが特徴です。
また、細かい操作が難しくなったり、大きな音による耳への負担が心配だったり、といった高齢者特有のニーズに応える製品が各社から販売されています。
高齢者に優しい機能の例
- 簡単な操作パネル: 電源のオン/オフや音量調節のボタンが大きく、分かりやすく配置されている。
- 左右独立音量調整: 左右の耳で聞こえ方が違う場合でも、それぞれに最適な音量にバランスを調整できる機能。
- 音声の明瞭化機能: テレビのニュースやドラマのセリフなど、人の声を強調して聞き取りやすくする機能。
- 音量制限機能: 急に大きな音が出ても耳を傷つけないよう、最大音量を自動で制限してくれるセーフティ機能。
- 軽量設計と快適な装着感: 長時間使用しても疲れにくい、軽量で側圧の弱いデザイン。
特に、テレビ視聴を主目的とする場合は、ソニーの「お手元テレビスピーカー」のように、スピーカーを手元に置くタイプや、JVCケンウッドの「みみ楽」シリーズのようなワイヤレスヘッドホンが人気です。
これらの製品は、補聴器との併用ではなく、補聴器を外した状態での使用を想定していることが多いです。
ご家族へのプレゼントとして選ぶ際にも、これらのポイントを参考に、本人がストレスなく使える製品を選んであげることが大切です。
補聴器とヘッドフォン集音器の違い
ここまでにも触れてきましたが、「補聴器」と「集音器」は、似ているようで全く異なるものです。
この違いを正しく理解することは、適切な製品選びのために非常に重要です。
最大の違いは、薬機法(旧薬事法)という法律上の位置づけです。
この違いが、性能、価格、販売方法など、あらゆる側面に影響を与えています。
補聴器と集音器の比較表
項目 | 補聴器 | 集音器 |
---|---|---|
分類 | 管理医療機器 | 音響機器(家電製品) |
主な目的 | 難聴による聞こえの低下を補う | 周囲の音を大きくして聞き取りやすくする |
調整(フィッティング) | 専門家が聴力に合わせて周波数ごとに細かく調整 | 利用者自身が音量などを調整(調整機能は限定的) |
安全性 | 過大音を防ぐ出力制限機能あり | 出力制限の規定なし |
価格帯 | 高価(片耳5万円~50万円以上) | 安価(数千円~数万円) |
購入場所 | 対面販売が原則の補聴器専門店、眼鏡店など | 家電量販店、通信販売など |
簡単に言えば、補聴器は「一人ひとりの聞こえに合わせてオーダーメイドするメガネ」、集音器は「誰でも使える既製品の老眼鏡」のようなものと例えられます。
聞こえに医学的な問題(難聴)を抱えている場合は、必ず集音器ではなく、医療機器である補聴器を選ぶ必要があります。
自己判断で集音器を使い続けると、かえって聴力を悪化させるリスクもあるため、まずは耳鼻咽喉科を受診しましょう。
補聴器は聞こえる耳に入れるべきですか?
補聴器の装用について、特に片耳のみで使用する場合、「どちらの耳につけるべきか」という疑問を持つ方は少なくありません。
基本的な考え方として、補聴器は聞こえにくい側の聴力を補うためのものですが、片耳装用の場合は少し考え方が異なります。
一般的には、比較的聞こえが良好な方の耳に装用する方が、補聴器の効果を実感しやすいと言われています。
なぜ聞こえる側を活かすのか?
音は耳で集められますが、最終的に「言葉」として意味を理解しているのは脳です。
聞こえが良好な方の耳から入ってくる音情報を補聴器で補助することで、脳が言葉を認識する能力を最大限に活かすことができます。
極端に聴力が低下してしまった耳に高性能な補聴器をつけても、脳が音を言葉として処理する能力自体が衰えていると、十分な効果が得られない場合があるのです。
自己判断は禁物です
ただし、これはあくまで一般的な傾向です。
左右の聴力差の程度や難聴の種類、言葉の聞き取り能力など、総合的な検査結果に基づいて判断する必要があります。
例えば、片方の耳だけが極端に聞こえない「一側性難聴」の場合は、聞こえない側の音を聞こえる側の補聴器へ転送する「クロス補聴システム」という特殊な方法が有効なこともあります。
どちらの耳に装用すべきか、あるいは両耳に装用すべきかについては、必ず補聴器販売店の専門家や耳鼻咽喉科の医師と相談の上、ご自身の聞こえの状態にとって最も効果的な方法を選択してください。
総括:補聴器とヘッドホンの上手な併用
この記事では、補聴器とヘッドホンの併用に関する様々な情報をお届けしました。
最後に、最適な製品選びと上手な付き合い方のポイントをまとめます。